- 緑内障
見えなくなる前に気づく ―「前視野緑内障」とは?
目次
緑内障は「気づかないうちに進行する病気」
緑内障は、日本における中途失明原因の第1位となっており、自覚症状がないまま進行することが最大の特徴です。特に視野(見える範囲)に異常が出る前の段階でも、眼の神経(視神経)の損傷が始まっている場合があり、これを「前視野緑内障(PPG: Preperimetric Glaucoma)」と呼びます。
前視野緑内障とは?
「前視野緑内障」は、視野検査では異常が認められないものの、OCT(光干渉断層計)などの画像検査で視神経の障害や網膜神経線維層の菲薄化が確認される状態を指します。
この状態ではまだ視野に異常は出ていないため、日常生活に支障がなく、本人が気づくことはまずありません。しかし、視神経の障害はすでに始まっているため、放置すれば視野障害へ進行するリスクがあります。
なぜ前視野緑内障が注目されているのか?
従来の緑内障診療では、視野検査が最も重視されてきました。しかし、近年の画像診断技術の進歩により、「視野障害が出るより先に視神経障害が始まっている」ことが明らかになってきました。
-
OCT(光干渉断層計)や眼底写真の自動解析を用いることで、視神経乳頭の陥凹拡大や網膜神経線維層の菲薄化を早期に検出できます。
-
最新の研究では、構造的な変化(神経のダメージ)は、機能的な変化(視野の異常)より数年早く始まることが報告されています(Weinreb RN, 2014, Ophthalmology)。
前視野緑内障の診断に使われる検査
前視野緑内障は、以下のような検査によって疑われ、診断されます。
-
眼圧測定:正常でも緑内障になる「正常眼圧緑内障」が多いため、必須ではあるが決定的ではない。
-
OCT:網膜神経線維層(RNFL)や黄斑部のガングリオン細胞層(GCC)の厚みを計測し、構造的異常を検出。
-
視神経乳頭検査(眼底写真・立体観察):乳頭陥凹の拡大や左右差を評価。
-
視野検査:あくまで“正常”であることがPPGの診断の前提。
前視野緑内障の治療方針は?
緑内障診療ガイドライン(第5版)の立場
「視野異常がなくても、視神経障害が明らかな場合は、将来の視野障害のリスクを考慮して治療を開始することがある」とされています。
つまり、
-
リスク因子が高い場合(高齢・家族歴・高眼圧・片眼性など)
-
視神経障害が進行傾向にある場合
は、点眼治療(眼圧下降薬)を開始することが望ましいと考えられます。
最新の知見では?
-
PPGでも眼圧を低下させることで、視神経障害の進行を抑えられるという研究結果があります(Yamada H, Am J Ophthalmol, 2020)。
-
また、AIによるOCT画像解析が進めば、視野検査より前に治療の要否を判断できる時代が近づいています。
今後の展望 ―「見えなくなる前に守る医療」へ
前視野緑内障の診断と治療は、緑内障診療の「早期発見・早期治療」を一段と前進させるものです。今後は以下のような進歩が期待されます。
-
より高解像度なOCT機器による微細な構造変化の検出
-
AI(人工知能)による視神経損傷の早期予測モデル
-
**患者個別化医療(Precision Medicine)**に基づく治療選択
-
治療効果の“構造的”モニタリング手法の確立
まとめ:前視野緑内障のポイント
-
前視野緑内障は視野異常の前に起こる視神経の障害。
-
OCTなど画像診断により早期発見が可能。
-
視野が正常でも、進行リスクに応じて治療が推奨されることがある。
-
今後の研究により、さらに早期での介入が期待される。
【よくあるご質問 Q&A】
Q1. 視野に異常がないのに「緑内障の前段階」と言われました。どういうことですか?
A. 視野検査で異常がなくても、視神経の構造にすでに障害が出ている状態を「前視野緑内障」と呼びます。OCTなどの画像検査により、視神経のダメージを早期に見つけることができるようになってきました。これは「緑内障のごく初期段階」であり、将来的に視野障害に進行する可能性があるため、注意深い経過観察や治療が重要です。
Q2. 治療は必要ですか?様子をみてもいいのでは?
A. 状況によって異なります。眼圧が高い場合や視神経の障害が進んでいる可能性がある場合は、視野に異常が出る前から治療を始めた方がよいこともあります。一方で、進行の兆候がない場合は経過観察(定期検査)を続けるだけでも十分なケースもあります。主治医と相談して、将来のリスクに応じた治療方針を決めましょう。
Q3. どんな治療があるのですか?
A. 基本は点眼薬による眼圧コントロールです。眼圧が正常でも、視神経を守る目的で眼圧をさらに下げることがあります。点眼は毎日の継続が必要ですが、視野が失われる前に治療を始めることで進行を防ぐ効果が期待されます。
Q4. 前視野緑内障は完治しますか?
A. 完治(元通りに戻す)ことは難しい病気ですが、進行を抑えることは可能です。早期発見・早期治療により、一生視力を保って生活できる人もたくさんいます。そのためにも、定期的な検査の継続がとても大切です。
Q5. 家族も緑内障になりますか?
A. 緑内障には遺伝的な傾向があります。特に血縁関係のある親族に緑内障の方がいる場合、発症リスクが高まることが知られています。40歳を過ぎたら家族の方も眼科検診を受けることをおすすめします。