白内障手術では濁った水晶体を取り除き、人工のレンズ(眼内レンズ:IOL)に置き換えます。
単焦点レンズは「1つの距離」にピントが合う設計ですが、多焦点(拡張焦点を含む)レンズは「複数の距離」をカバーするよう設計されており、眼鏡への依存を減らせる可能性があります。
当院では皆様の個々のニーズに応じて、ご希望がある場合に多焦点眼内レンズの使用を提案しています。
当院では Alcon 社の Vivity(EDOF・非回折)と PanOptix(回折・3焦点)を取り扱っています。
多焦点眼内レンズとは
保険適応の単焦点レンズでは遠くを見るようにして読書・スマホなどの手元作業は老眼鏡を使用する生活、もしくは手元を見えるようにして、運転など遠くを見るときには眼鏡を使用するなど、見える距離を選ばなければいけません。一方で選定療養の多焦点眼内レンズとは、保険適応の単焦点レンズと違い、眼の中に入ってくる光のエネルギー配分をレンズデザインで振り分けることで、遠くから、中距離・手元まで見えることを目指し、日常生活における眼鏡への依存度を大幅に軽減できることが期待されます。
※ 適応は目の状態(角膜・黄斑・視神経など)や生活スタイルを総合的に評価して決定します。
多焦点眼内レンズのメリット
・遠方〜中間(レンズにより近方まで)を裸眼で見やすくし、眼鏡の装用頻度を軽減できる。
・両眼の設計(左右の役割分担など)により、日常生活の総合的な快適性を高めやすい。
多焦点眼内レンズのデメリット/注意点
・コントラスト感度の低下:レンズの種類によっては単焦点に比べ、くっきり感がやや劣ることがあります。
・ハロー・グレア:レンズの種類によって夜間のライトがにじむ・輪が見える等の異常光視が出ることがあります(程度には個人差・レンズ差)。
・適応の制限:黄斑疾患・緑内障などがある場合、選択に慎重な判断が必要です。
・近方の限界:EDOF・焦点深度拡張型のレンズでは50cmより手前の細かい作業で老眼鏡が必要になることがあります。
・慣れの期間:術後しばらく「見え方の慣れ」の期間を要する場合があります。
当院で取り扱うレンズと特徴
Alcon Clareon® ViVity® (クラレオン ビビティ)(選定療養)

光エネルギーのロスがほぼ無い非回折型レンズのため、コントラスト感や明るさも単焦点レンズ同等に確保されています 。この結果、夜間運転時の対向車ライトの眩しさや光の輪が気になるリスクが大幅に軽減されており、夜間運転をされる方にも選択肢に入る画期的なレンズです。しかしデメリットとして、30cm前後の手元の視力がでにくいため、近づけてのスマホや読書では眼鏡が必要になる場合もあります。そのため当院では片眼の術後検査にて患者さんの見え方を確認し、手元の見え方に満足いただけない場合はマイクロモノビジョンもしくはPanOptixを使用したmix and match法で対応します。2025年5月より乱視矯正にも対応し、使用いただける患者様は飛躍的に増えました。
Alcon Clareon® PanOptix® (クラレオン パンオプティクス)(選定療養)

遠方、約60cmの中間距離、約40cmの近方にピントが合うよう光学設計されたレンズで、2019年に国内承認されて以来、多焦点レンズの中で最も使用実績が多いレンズの一つとなっており、その効果と安全性は多数の臨床例で確認されています。
しかし、このレンズでは夜間のハロー・グレア現象(街灯や車のライトが滲んだり輪がかかって見える)が生じる可能性があります 。これは多焦点レンズ全般の宿命ですが、PanOptixでも暗所では多少のハロー・グレアが報告されています 。もっとも、大半の患者様では術後しばらく経つと脳が順応し、ハロー・グレアは気にならなくなるとされています。しかし頻繁に夜間運転をする方や、暗い場所での作業が多い方は、この現象がストレスになる可能性を考慮する必要があります 。また、光を分配する構造上、暗い環境下では明暗の差(コントラスト)をやや感じにくくなる可能性があります 。例えば薄暗い部屋で細かな文字を読む際など、若干ぼやけを感じることがあります(個人差があります)。
総合すると、「メガネにほぼ頼らない代わりに、夜間の見え方に少し妥協する」ことを受け入れられる方向きのレンズです。適応さえ正しければ術後の生活は一変しますので、興味がある方はぜひご相談ください。
[比較の目安]
| 眼内レンズ |
単焦点レンズ(保険診療) |
ビビティ Vivity (選定療養) |
パンオプティクス Panoptix (選定療養) |
| 裸眼で見やすい距離 |
「遠く」か「手元」のどちから一方 |
遠くから中間(50cm)まで |
遠く・中間(60cm)・手元(40cm)の3焦点 |
| 眼鏡 |
必須 |
手元は必要になることが多い |
原則不要 |
| 見え方 |
最もよい |
良い |
やや良い |
| ハロー・グレア |
◎ |
◎ |
◯ |
| コントラスト |
◎ |
◎ |
◯ |
| 追加説明 |
白内障手術において、もっとも広く一般的に使用されているレンズ
ピントの合う部分では見え方の質は高い |
2025年より乱視矯正も可能となり広く使用されるように
手元はやや弱いが、見え方は単焦点レンズに匹敵するといわれるレンズ
スマホや読書では眼鏡が必要になることもあるので注意が必要 |
多焦点眼内レンズの世界的に最もスタンダードなレンズ
遠くから手元まで見えるので、眼鏡なしで生活したいのであれは最も有力な選択肢
夜間運転が多い方は注意 |
費用について(選定療養)
・当院で取扱のある多焦点眼内レンズは「選定療養」の対象です。
・白内障手術は保険診療(自己負担1〜3割)で行い、多焦点レンズに伴う差額や追加検査等は自費となります。
・実際の金額はレンズ種・乱視矯正の有無により異なります。院内掲示の料金をご確認ください。
[当院料金(片眼・税込) 保険診療との差額分]
・Vivity(通常):+305,000円
・Vivity(トーリック・乱視矯正):+338,000円
・PanOptix(通常):+305,000 円
・PanOptix(トーリック・乱視矯正):+338,000円
[補足]
・お支払い方法:現金/各種クレジット
・医療費控除:年間医療費が一定額を超える場合、対象となることがあります。
よくある質問(FAQ)
Q1.選定療養とは何ですか?
A.保険診療に、患者さまの希望による付加的サービス(多焦点IOLなど)を併用できる制度です。手術自体は保険で行い、レンズ差額や追加検査は自費でお支払いいただきます。
Q2.夜間運転をよくします。どのレンズが向いていますか?
A.一般にEDOF系の Vivity はコントラストが良好で、夜間のハロー・グレアが少ない傾向があります。個々の瞳孔径や角膜形状も考慮して選択します。
Q3.読書や細かい作業を裸眼でしたいのですが?
A.PanOptix は遠・中(約60cm)・近(約40cm)の3焦点で、近方作業を重視する方に適するケースがあります。両眼設計や乱視の有無も合わせて評価します。
Q4.乱視があります。対応できますか?
A.Vivity・PanOptix ともトーリック(乱視矯正)モデルが選べます。角膜乱視量と軸に合わせて最適な度数・回転角を計算し、術中ガイドで固定精度の向上に努めます。
Q5.網膜や視神経の病気があります。多焦点は可能ですか?
A.黄斑疾患・進行した緑内障などがある場合、多焦点は不向きなことがあります。EDOFが選択肢になる場合もありますが、単焦点を含めて総合的にご提案します。
Q6.片眼だけ多焦点にしても大丈夫ですか?
A.可能です。左右で役割分担(例:片眼を遠中、もう片眼を中近)にする設計で、総合的な見やすさを目指す方法があります。
Q7.老眼鏡は完全に不要になりますか?
A.日常の多くの場面で眼鏡を減らせる可能性はありますが、細かな近業や暗所での作業などで補助眼鏡が必要になることがあります。
Q8.手術時間と通院回数は?
A.手術自体は5〜10分程度が目安です。手術当日は来院からお帰りまで2〜3時間ほどみてください。術前にまず診察で白内障の有無を確認し、その後別日に術前検査をし、適応レンズを相談します。
術後は通常、翌日・1週間・1か月・3か月などの目安で経過を確認します(個別に調整)。
Q9.見え方が思ったほど合わない場合は?
A.まずは経過観察と視力・屈折の安定を待ち、眼鏡での補正を検討します。稀に追加矯正(角膜表面の微調整など)やレンズ交換が検討されることがありますが、適応は厳密に評価します。
Q10.手術後の生活上の注意は?
A.当日は洗顔・洗髪・飲酒・激しい運動を控えていただきます。数日〜1週間程度は点眼治療と清潔保持をお願いします。運転再開の可否は視力・見え方を確認してから医師が個別に判断します。