- 一般眼科
調節緊張ってどういうこと?
学校検診が終わり、視力低下を指摘されたお子様が多く受診されるようになってきました。
その学校検診で「調節緊張」と言われ、治療が必要と言われたお子様もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は調節緊張とはどんな状態で、どのような治療が必要なのか、お話したいと思います。
調節緊張の概要
調節緊張とは、ピント調節を担う目の筋肉(毛様体筋)が長時間緊張し続けることで、一時的に近視のような状態になる現象です 。いわゆる仮性近視とも呼ばれ、本当の近視(真性近視)とは異なり目を休ませれば回復する可能性があります 。特にテレビゲームやタブレット学習などで長時間近くを見続けると毛様体筋がこわばり、遠くにピントを合わせづらくなってしまいます。これが調節緊張発生の主な原因です 。
調節緊張になると、遠くのもの(例: 教室の黒板)がぼやけて見えたり、目が疲れやすくなったりします 。視力は日によってあるいは時間帯によって変動し、休憩後や朝はよく見えるのに、勉強やゲームの後には一時的に視力が低下するといったことが起こります 。場合によってはピントが合いにくくなることで頭痛がしたり、物が二重に見えたり、目の乾燥感・異物感などを訴える子もいます 。このように調節緊張は目の使いすぎによる一過性の視力低下であり、目の酷使を控えれば改善しうる点が特徴です。
近年、この調節緊張は子どもの間で増えており、特に勉強やゲームなどで目を酷使しがちな小・中学生に多く見られます 。学校の視力検査で「視力低下」を指摘された子どもの中には、この調節緊張が原因で一時的に視力が落ちているケースが少なくありません。保護者の方は「近視になってしまったのでは?」と心配されるかもしれませんが、調節緊張による仮性近視はあくまで一時的なピント調節の問題で、眼球の構造が変化する真性近視とは違います 。適切な対処をすれば視力が回復する可能性が高く、仮性近視自体が直接そのまま真性近視に移行することはないとされています 。ただし、長時間の近距離作業を続ける生活環境自体は真性近視の発症・進行リスクとなるため注意が必要です 。日頃から目を酷使しすぎない習慣づけが大切です。
以下に、調節緊張(仮性近視)と真性近視の違いをまとめます。
調節緊張(仮性近視) | 真性近視 | |
原因 |
長時間の近距離作業(スマホ・タブレット)などで毛様体筋が過度に収縮し続けることが主因 |
眼球が前後に長くなるなどの恒常的な屈折異常(遺伝要因や環境要因による)。 |
視力の状態 |
遠くが一時的にぼやけるが、休息や遠くを見ることで改善することが多い 。 |
遠くが常にぼやけて見え、休息しても自然には改善しない。 |
対処・治療 |
目を休める、遠くを見て調節を緩める、調節麻痺の目薬を使うなどで改善が可能 。 |
眼鏡やコンタクトでの矯正が基本。低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーで進行抑制を図ることも。 |
経過・将来への影響 |
放置してもそれ自体が直接真性近視に移行することはない 。ただし習慣次第で再発しうる。 |
放置すると生活に支障をきたすうえ進行する可能性がある。 |
診断方法
調節緊張が疑われる場合、眼科でいくつかの検査を行って真性近視との鑑別や状態の確認をします。まずは通常の視力検査で現在の裸眼視力を測定します。学校健診などで視力低下を指摘されて受診するケースでは、この時点で裸眼視力が低下していることが多いです。
続いて、屈折検査と呼ばれる検査で目の屈折度(近視や遠視の度合い)を調べます。一般的にはオートレフラクトメーターという機械や視力表を用いた検査で近視の度数を測ります。しかし調節緊張があると、検査中も毛様体筋が緊張したままの可能性があり、実際より強い近視と測定されてしまうことがあります。そこで、調節緊張の有無を確認するために眼科では雲霧法と呼ばれる眼の筋肉を一時的にリラックスさせるような方法をとったり、強い調節緊張が歌がれる場合は調節麻痺剤を用いた検査を行います。これは点眼薬で一時的に毛様体筋を麻痺させ、ピント調節を完全にリラックスさせた状態で改めて屈折度を測定します 。これらの検査により、本来の屈折度(真の屈折状態)が測定できるため、大きく結果が改善する場合は、近視だと思われた状態が調節緊張による仮性近視であったことが分かります。
治療法と対処法
調節緊張と診断された場合、以下のような対処・治療法があります。お子さんの状態に合わせて組み合わせて行われます。
調節麻痺薬(ミドリンM)点眼療法
調節緊張の治療で中心的となるのが、調節麻痺薬の点眼による療法です。日本ではミドリンMという点眼薬(一般名トロピカミド0.4%)がよく使われます 。この目薬を点眼すると毛様体筋が一時的に麻痺し、過度な緊張状態がリセットされます。いわば「ピント合わせの筋肉を強制的に休ませる」ための薬です 。点眼後しばらくはピント調節ができなくなるため手元が見えにくくなり、また瞳孔も少し開くので明るい所でまぶしさを感じることがあります。そのため通常は夜寝る前に1回点眼し、就寝中に薬の効果が切れるようにします。こうすることで日中の生活への支障を最小限にしつつ、就寝中に毛様体筋をしっかり休ませるわけです。
ミドリンM点眼療法の目的は、長時間緊張状態にあるピント調節機能をリセットし、毛様体筋のコリをほぐしてあげることにあります。これにより仮性近視の部分が改善し、本来の視力を取り戻す助けとなります。点眼の期間中は毎晩継続して点すことが重要で、指示された用法を守りましょう。一般的に、点眼開始から数日~1週間程度で効果が現れ始め、朝の裸眼視力が改善してくることがあります。ただし効果の出方には個人差があり、焦らず継続することが大切です。
ミドリンM点眼の終了時期の目安
調節麻痺薬による点眼療法は永久に続けるものではなく、ある程度続けた後に中止のタイミングを判断します。典型的には数週間から数か月程度、毎晩の点眼を続けて経過を観察します。医師は定期検査で視力や屈折度の変化をチェックし、仮性近視が改善したかを判断します。終了の目安としては、裸眼視力が安定して十分に出るようになった、再度調節麻痺剤を使った検査でももはや近視の度数がほとんど出なくなった、といった状況が挙げられます。例えば、治療開始前は裸眼視力0.5だった子が、点眼療法の途中経過で1.0まで回復し、その状態が維持されている場合は、一旦点眼を中止して様子を見る判断がなされます。
点眼をやめるタイミングはお子さんの状態によりますが、だいたい1〜3か月程度をめどに効果判定を行うことが多いです。治療効果が不十分でまだ調節緊張が残っていると判断されれば点眼継続(もしくは別の治療法追加)、十分改善していれば点眼終了となります。医師の指示に従い、自己判断で中断しないようにしましょう。なお、点眼を中止した後も定期的に視力チェックを行い、必要なら再度点眼療法を行う場合もあります。
必要に応じた眼鏡処方とそのタイミング
調節緊張による仮性近視の場合、基本的には一時的なピント調節の問題なのですぐに眼鏡を作る必要はないケースが多いです。むしろ、調節緊張が強い状態で測った近視度数に合わせて眼鏡を作ってしまうと、実際には度が強すぎてかえって見づらくなったり、過矯正による負担で頭痛の原因になったりする恐れがあります。そのため眼科医はまず点眼療法などで調節緊張を和らげ、真の屈折度を見極めてから眼鏡が必要か判断します。
ではどのタイミングで眼鏡を検討するかというと、以下のような状況が目安になります。
• 調節緊張が改善した後も、なお明らかな近視の屈折異常(真性近視)が残り、裸眼では黒板の文字が見えにくい場合。具体的には、調節麻痺後の検査で –0.75D以上の近視が確認され視力が0.7未満である、といった場合には眼鏡を処方する方が良いでしょう。
• 仮性近視と真性近視が混在しており、点眼療法を行っても日常生活で支障がある場合。この場合は弱めの度数の眼鏡を作って様子を見ることもあります(調節緊張の部分が回復すればメガネなしでも見える可能性があるため、度数は控えめに処方されます)。
• お子さんが明らかに見えづらさを訴えており、学校生活に差し支えている場合。安全面・学習面から眼鏡をかけた方が良いと判断されるケースです。
一方で、調節緊張による見えづらさだけの場合は、できるだけ急いで眼鏡を作らず経過を見ることが推奨されます 。実際、調節緊張の治療によって視力が回復すれば眼鏡なしで生活できるためです。医師から「様子を見ましょう」と言われた場合は、焦らずまずは治療と生活習慣の改善に努めてください。逆に、偽近視ではなく真性の近視と診断された場合には、医師の処方に基づいて眼鏡やコンタクトレンズで視力矯正するのが原則です 。見えにくい状態を放置すると頭痛や肩こりなど体調不良の原因にもなります 。総じて、「仮性近視の部分は治療で改善し、残った真性近視の分だけ眼鏡で矯正する」という方針で対応が決まっていきます。
目の使い方の指導・生活習慣の見直し
調節緊張を改善し再発を防ぐためには、日常生活での目の使い方を見直すことがとても重要です。治療と並行して、以下のような指導や工夫が行われます。
• 読書や勉強の姿勢・距離の指導: 本やタブレットを見るときは顔を本に近づけすぎないようにします。一般に「目と本の距離は一尺(約30cm)、胸と机の距離はこぶし一つ(約10cm)、指先とペン先の距離は一寸(約3cm)」を目安にすると良いと言われます 。姿勢が悪くなっていないか、長時間猫背で近づきすぎていないか、大人が時々チェックしてあげましょう。
• 連続して近業作業をしない: 長時間休憩なく勉強やゲームを続けると調節緊張を起こしやすくなります。30~40分ごとに休憩を取り、その際に意識的に遠くを見るように促します(遠くの景色や緑を見る、窓の外を眺めるなど)。授業の合間の休み時間にも黒板から目を離して遠方を見る習慣をつけると良いでしょう 。近くを見る時間と遠くを見る時間をバランスよく配分することが大切です。
• デジタル機器の使用制限と工夫: スマホやタブレットゲームは画面が小さく至近距離になりがちなので、使用時間を決めて長時間連続使用を避けるようにします。保護者の方が時間を管理し、1回につき20~30分程度に留めると良いでしょう。タブレット学習では画面を立てかけてできるだけ目から離す、文字サイズを大きくする、ブルーライトカットメガネを使う等の工夫も有効です。
• 照明環境を整える: 暗い場所で本を読んだり、逆に明るすぎる照明で画面がぎらついたりすると目に負担がかかります。適度な明るさを保ち、寝転がって本やスマホを見ないようにするなど、眼に優しい環境を整えましょう。
以上のような生活習慣の改善によって、調節緊張の早期回復と再発予防が期待できます。ご家庭でもお子さんの目の使い方に気を配り、声かけをしてあげてください。
よくある質問(Q&A)
Q: どのくらいで視力が回復しますか?
A: 個人差がありますが、調節緊張による視力低下は適切な対処を行えば数週間~数か月で改善することが多いです。早い子では点眼治療を始めて数日~1週間程度で「朝の見え方が良くなった」と実感する場合もありますし、習慣の見直しを徹底することで徐々に裸眼視力が向上していくケースもあります。ただし、完全に正常な視力に戻るまでの期間はお子さんの状態や調節緊張の程度によります。大切なのは焦らずに治療と生活改善を継続することで、徐々に回復傾向が見られれば心配いりません。経過中に定期的に眼科で視力検査を受け、医師から改善傾向があると言われれば順調です。
Q: 眼鏡を作るタイミングはいつですか?
A: 調節緊張と診断された場合、まずはすぐ眼鏡を作らず経過を見るのが一般的です。仮性近視の部分は治療で改善する可能性が高いため、いきなりその度数で眼鏡を作ってしまうと無用な強いレンズをかけることになりかねません。
眼鏡を検討するタイミングは、治療後にも明らかな近視が残った場合や、日常生活でどうしても裸眼では支障がある場合です。医師が「もう眼鏡をかけましょう」と判断したら、その時期が適切なタイミングと言えます。逆に「まだ様子を見ましょう」と言われているうちは、眼鏡は作らず経過観察で大丈夫です(真性近視でない限り、見えにくい状態を少し我慢しても健康上大きな害はありません)。お子さんの視力が治療で改善する余地があるうちは、眼鏡よりもまず根本原因の解消に努めましょう。
Q: ミドリンMの副作用はありますか?
A: ミドリンM(トロピカミド)の点眼中、一時的に近くが見えづらくなったり、まぶしさを感じたりすることがあります 。点眼直後に目がしみるような軽い刺激感が出る子もいます 。これらは薬の作用による一過性のもので、通常しばらくすれば収まります。また、まれに口の渇きや顔のほてりなど全身的な副作用が出ることも報告されています (これは点眼液が鼻涙管を通って喉に流れた場合などに起こることがあります)。重篤な副作用はほとんどありませんが、極めてまれに小児では興奮症状や不整脈などが出たとの報告もあります 。いずれにせよ通常の使用量であれば安全性は高く、何か気になる症状が出ても点眼を中止すれば速やかに改善します。不安なことがあれば遠慮なく医師に相談してください。
Q: ずっと目薬を続けないといけないのですか?
A: いいえ、調節麻痺の目薬はあくまで一時的な治療手段です。ずっと差し続ける必要はありませんし、永久に続けるものでもありません。通常は上述のように一定期間点眼を続け、様子を見て問題が解消すれば中止します。調節緊張が改善し視力が回復した後は、点眼は終了となります。その後は日常の習慣改善で再発を防ぐことが目標になります。ただし、一度良くなっても将来また目を酷使しすぎて調節緊張が再発するような場合には、医師の判断で再び点眼療法を行うこともあります。つまり「治療が必要な間だけ使うもの」であり、ずっと目薬に頼り続けるわけではありませんのでご安心ください。
Q: 自宅でできることはありますか?
A: はい、ご家庭でできるケアや工夫がたくさんあります。基本は先述した生活習慣の見直しになりますが、改めてポイントをまとめますと:
• 近くを見る時間を減らす/区切る: 家庭学習の際は1時間おきに休憩を入れて遠くを見たり目を閉じたりしましょう。ゲームやスマホも長時間連続しないよう時間を区切って管理してください。
• 正しい姿勢と照明: 勉強時の姿勢が悪いと目に負担がかかります。机と椅子の高さをお子さんに合ったものに調整し、本やノートと目の距離が近すぎないよう注意します。部屋の明るさも適度に保ち、暗い中での読書や画面視聴は避けましょう。
• 目の休息習慣: 遠くの景色を見る、お風呂で温かいタオルを目に当てる(蒸しタオルで眼温浴をする)など、目の筋肉をリラックスさせる時間を作りましょう。就寝前に軽く目の周りをマッサージしてあげるのも良いです。
• 屋外で体を動かす: 外遊びや散歩など屋外で過ごす時間を増やすことも有効です。遠くを自然と見る機会が増え、リフレッシュにもなります。研究では日照時間が長いほど近視の進行が抑えられる傾向も報告されています。週末はなるべく外で遊ぶよう促してください。
これらの家庭での取り組みは、調節緊張の改善と再発予防に大いに役立ちます。特に習慣づけが重要ですので、保護者の方が声かけをして規則正しい目の休養を促してあげてください。
Q: 再発はありますか?
A: はい、再発する可能性はあります。調節緊張は生活上の目の使い方と密接に関係しているため、せっかく良くなってもその後また長時間の近距離作業が続けば再び調節緊張を起こすことがあります。特に成長に伴い勉強時間が増えたり受験期に入ったりすると、どうしても目を酷使しがちで再発リスクも高まります。「せっかく治ったのにまた視力が落ちてきた…」という場合は、再度同様の対策(生活習慣の見直しや必要なら点眼治療)を行うことになります。調節緊張そのものは繰り返す可能性がありますが、一方でお子さんが年齢とともに上手に目を休めるコツを身につけたり、近業と遠望のバランスを取れるようになれば、頻繁に再発することは防げます。大事なのは継続的なケアと定期検査です。定期的に眼科で視力チェックを受け、何か異変を感じたら早めに相談するようにしましょう。再発しても適切に対処すればその都度視力は回復が期待できますので、過度に心配しすぎず見守っていただければと思います。
以上のように、調節緊張(仮性近視)は子どもの一時的な視力低下の原因としてよく見られますが、正しく対応すれば改善可能な状態です。
保護者の皆様は必要以上に不安にならず、眼科医の指示のもとで治療と生活習慣の改善に取り組んでください。お子さんの大切な目の健康を守るために、家庭と医療機関が協力してサポートしていきましょう。
学校検診で眼科受診をするように指示があれば、当院でご相談ください。